第143号 2015年11月
言葉を紡ぐ
10月に入り、今年最後となる秋番茶の収穫期を迎える。今年から緑茶加工を弟が始めるようになり、日中は茶刈り、夜は茶工場に入って加工と掃除といった具合に家族総出の大仕事。子どもが保育園からもらってきた風邪に家族が順番にかかりながらも作業を休むわけにはいかず、何とか持ちこたえている。父は痛む腰をさすりながら、仕事を休もうともせず、皆と一緒に朝早くから夜遅くまで働き続けている。
秋番茶収穫の合間をぬって今年も稲刈り交流会を開催した。「命めぐる収穫祭」と題したこの交流会では普段何気なく通り過ぎているものや見えにくいものを出来るだけ可視化し、命の連鎖のなかに自らを見出してもらいたいというねらいがある。作業の合間の食事には採れたての新米、サツマイモ、栗、茄子など旬の農作物や、茶畑に生える雑草のヤマイモのムカゴや、田んぼの周りを荒らしまわった猪の肉、田植えからこれまで田んぼの除草をしてくれた合鴨を自ら絞めていただく鴨肉などなど、すべての食材に其々のストーリーがある。そのストーリーを知ることは、「食べる」という行為の持つ意味を深く考えるきっかけとなり、「食べる」ことを通して農業、自然、社会などと自らの関わりを考えるようになるから面白い。
交流会でもう一つ大切にしていることは、体験や感じた事などを一個人の体験に留めるのでなく、皆で分け合い語り合うこと。言葉にすることで、体験は更に深まった思考へと繋がり、ディスカッションは相互の考えや意見に刺激されながら想像も出来なかった程に盛り上がる。参加者の多くは都市部に住む若者で、自然から離れた普段の暮らしの中で如何に人間らしく生きるかということが今回の議論の中心となった。参加者の暮らす場所や職業、年齢が様々なように、答えは一つではない。大切なのは悩みながらも考えることだと語り合いながら感じた。稲を刈り取り、毎日食べていた米の有難みを身をもって感じ、食を通して里山の豊かさと温かさに触れる。新しい友人と語り合い、共に笑う、そんなシンプルなことが一人一人のこれからの生き方に一石を投じることが出来たらと思う。
2日間の収穫祭が終わり、正直とても疲れた。けれど、参加した方々の笑顔や感想が大きな励みとなり、また明日から再開される秋番茶収穫も頑張れる。有機農業はただ単に農薬や化学肥料を使わない農法ではなく、人が人として生き、社会や自然と繋がる場をつくる農業だと思う。これからの社会に果たす役割は大きい。
