第141号 2015年9月
日々の中の戦争
「僕は平和主義者だ。だから農薬も化学肥料も使わない。」
真剣に耳を傾ける訪問客に語る父の言葉はいつも率直だ。
農薬や化学肥料が万能だと信じられた時代、今から39年前に父はそれらの一切を使う事をやめ、無農薬・無化学肥料での農業へと切り替えた。その想いは平和へと繋がっている。
戦後70年、私達の暮らしは本当に戦争と切り離されていたのか。戦後は本当の意味での「戦後」だったのだろうか。父が無農薬へ切り替えた想いを聞くたびに考えさせられる。第一次世界大戦、そして第二次世界大戦で使われた毒ガスなどの化学兵器は戦後、「平和利用」として農薬へと姿を変えた。例えばクロルピクリンという毒ガスは現在は土壌燻蒸剤として地中に注入される。地表はビニールシートで覆われ、細菌や微生物、虫などすべての生き物が殺し尽くされた後に作物が植え付けられる。父はその光景はナチスのガス室を彷彿とさせると語っている。また、シアン化水素というナチスの強制収容所で使われた毒ガスは燻蒸の他、海外から輸入される果物や穀物など輸入農産物の長距離輸送と貯蔵の目的でポストハーベストとして使用されている。戦争中に大量に製造された爆弾は化学肥料へと姿を変えて農地に降り注がれている。
戦後、日本だけでなく、世界中で農業のあり方が大きく変わった。「緑の革命」の名のもとに化学肥料と農薬が世界中の農地にばらまかれている。その背景には戦時中に化学兵器などを製造していたモンサント、デュポン、バイエルなどの化学企業が生き残りのために農業分野へと転身を図り、現在は遺伝子組み換えを通して世界の農業を支配するまでの影響力を持つ存在になっていることがある。ご存知の通り、モンサント社はベトナム戦争で使われた枯れ葉剤を製造したメーカーで、現在は除草剤ラウンドアップとそれに耐性を持つ遺伝子組み換え作物の種子を製造、販売している。モンサント社の遺伝子組み換え作物の種の世界シェアは実に90％である。
私達の知らないうちに戦争は「平和」という上衣をまとい、私達の暮らしの中に入り込んでいる。しかし、その先には決して真の意味の平和はあり得ない。農薬、化学肥料を使う事によってこれまで自然との調和の中で営まれてきた農業は人間による支配の産業へと姿を変え、他の生物を殺し、自然を破壊し、私たち自身の糧をも汚染する危険をはらんでいる。
戦後70年、企業による農業支配と農業による自然破壊が進み、原発が再稼働され、戦争のできる国づくりが進められている。全ては根っこで繋がっている。日々の暮らしの中に潜む戦争と向合い、知り、行動していくこと、それが私たちの無農薬茶づくりの根底にある。
