第138号 2015年6月
互恵
4月24日、例年よりも数日早く新茶の収穫が始まった。3月末から4月上旬には雨や曇りの日が多く、日照不足が茶の味に与える影響を心配していた。自然の中で育つものは工業製品と異なり、その年の気象条件等に影響され少しずつ風味が変わる。良い年もあれば、悪い年もある。多様性の中から豊かさが生まれる。まったく同じものはひとつも存在しない。その変化の面白さをどこまで伝えられるか、スーパーマーケットに同じような顔をして並ぶ生鮮食品を前にするたび、私たち百姓が丁寧に言葉を紡いでいく必要性を強く感じる。
今年は子どもが生まれて初めての新茶。仕事と子育てをどうやって両立させるか、果たして両立させられるのか不安を抱えながらも、柔らかな新芽の伸びた茶畑を見れば心が躍り「何とかなるさ」と不安などどこかへ吹き飛んでしまうから不思議だ。案ずるより産むが易しとはよく言ったもので、実際に何とかなってしまった。ゴールデンウィークだというのに、休日を返上して友人や農業に興味のある若者が無償で農作業を手伝いに来てくれる。東京でサラリーマンをする友人、ゆくゆくは実家の農業を継ぎたいと勉強のために週末農作業を手伝いに来てくれる自衛隊員、現場を知りたいと休日にやってくる県庁職員などなど、多彩な顔触れが茶畑に集まった。我が子はといえば、栄養士の友人が茶畑ベビーシッターとなり、私が収穫作業をしている間中、子守りをしてくれている。茶畑に大勢の若者が集まり、茶畑の中を駆け回り、汗を流しながら働き、時折山々に明るい笑いがこだまする。そんな光景を目にするたび、私は感動を覚える。何と贅沢で幸せなことだろう。
日本の農業、農村が高齢化や過疎化など大きな問題を抱える中、若者が集まる場を作り、支え合いの関係があることに希望を見出している。今後この散発的な集まりを、より系統的に地に根付かせた取組みに変えていきたいと思う。それを実現すべく、家族の中でも話合いを重ねている。
私たちがこの山間地で農業を守り続けてこられたのは、これまでに当地を訪れた多くの方々に支えられてきたからこそ。今年の新茶も多くの方々に支えられ、無事収穫を終えることが出来たことを深く感謝している。当地を訪れた人々は「効率」や「経済性」だけでは計り得ない農山村の豊かさに触れ、滋味に富む素朴な旬の料理に感動し、身体を動かして自然の中で働くことの楽しさを見出してくれている。休日を終え、自分の暮らす場所に帰ってからも農村での体験は身体の中に残り、その後の食べ方や、消費の仕方、暮らし方など考え直しているという話を聞くのが何とも嬉しい。農の心を農家以外の人とも共有していくことで日本の農村、農業を守り、豊かさを皆で享受していけると思う。
4月25・26日に開催された第39回お茶摘み交流会へは今年も国内外から120名程の方々が参加してくれた。茶の新芽が伸び、地域が一番輝くこの季節を多くの人々と共有でき、楽しい2日間だった。来年は40周年!! 今年参加できなかった方も、ぜひ来年は当地へ足をお運びください。茶畑でお会いできる日を楽しみにしています。
