第140号 2015年8月
母乳から描く未来
一年の中で一番忙しい時期はいつ？と聞かれたら迷わず新茶の始まる4月から雑草の繁茂する9月末頃までと答えるだろう。4、5月の新茶、6月の田植え、麦刈、梅収穫に2番茶収穫と紅茶加工。それが終われば7月からは延々と草取りの毎日。今年はそれに加え育児と授乳という大仕事が加わりフル回転の毎日。
新茶の始まる直前の4月から、息子は私が子どもの頃に通っていた保育園に入園した。自然のなかで、子どもひとりひとりの成長を見守ってくれる保育園での息子の日々目覚ましい成長ぶりと弾ける笑い声に農作業の疲れなどはどこかへ吹き飛んでしまう。とはいっても、初めての育児と農作業の両立に四苦八苦することも多々。季節に追い立てられるように忙しい毎日だが、完全母乳で育てたいという想いがある。農作業の休憩時間や移動中の軽トラックの助手席など合間を見つけてはせっせと搾乳し冷凍母乳を保育園に届けているが、絶大な息子の成長力を前に搾乳が追い付かず冷凍母乳が間に合わない時は保育園に何度か通い、今のところミルクを足すことなく何とか持ちこたえている。
自分の母乳で子どもを育てられること、それは何と幸せなことだろう。本来であれば当然のことも、現代社会では希有となりつつあるのかもしれない。母乳はストレスや疲労に弱く、不安やストレスを抱えると母乳の出が悪くなる。子どもを健康に育てる為には、母親自身が心身ともに健康でなければならない。母乳の視点から現代社会を見るとどうだろう、育児中の女性に厳しい労働環境、核家族による子育て世代の孤立、シングルマザーに顕著に表れる貧困と格差、低い食糧自給率と揺らぐ食の安全、原発事故による放射能汚染、忍びよる戦争の暗い影．．．挙げ始めたらきりがない程に現代社会はストレスと将来への不安で満ち溢れ、母乳にとって最悪の環境であると思う。
「母乳から描く未来」それは子どもが健やかに育ち、人が人として尊厳をもって生きる社会だと思う。母乳からの視点を持てば、母乳を汚染する原発や核兵器、戦争などは地球から消え、それに代わって豊かな自然や文化が先々の子ども達のために守られていくのではないか。
父はよく「百姓にとって子どもは、究極の作物だ」と言っている。これからどんな水を与え、光を与え、栄養を与えて、枝葉や根を広げていくのか。母として、百姓として、現代を生きる一人の人間として、未来を思い描き行動していこうと思う。
子どもの誕生を自分の子どもや孫のことのように喜んでくれた多くの方々に、この場を借りて御礼申し上げます。温かな人と人との繋がりの中で息子は日々元気に成長しています。
