第75号 2009年10月
東の百姓、西の百姓
秋番茶収穫の直前の9月24～30日まで、スペイン北東部のアラゴン州ウエスカ県で農業青年の国際会議が開かれ、参加してきました。主催したのは「ビア・カンペシーナ」（スペイン語で農民の道という意）という家族農業と食糧を守ろうという国際農民運動組織。私の所属する日本の農民運動全国連合会（農民連）も2006年からビア・カンペシーナに加盟し、農業を守る運動を国内外で展開しています。今回の会議の趣旨は、世界的に農業に従事する青年がどのような状況に置かれているかを明らかにし、農業と食糧を守るために私たち青年はどのように協力できるかを模索するためです。
27カ国、60人以上の青年代表が参加し、語る各国の状況はとても興味深いものでした。国により、経済発展、文化、言語など違いが多いにもかかわらず、農村の青年が直面している状況がこんなにも世界的に共通しているのかと驚きます。これからのお話は 日本のことであり、そして世界のことでもあります。第１に、すべての国で農村での暮らしが成り立たず、青年が職を求めて都市部や海外へ移住していることです。メキシコの青年は「アメリカの農業労働者の80％はメキシコ人で、うち50％は不法移民だ。移民労働者は法律の保護を受けられないため、過酷な労働条件にさらされている」と報告していました。農業が基幹産業である私の地元では60人いた同級生の中で就農したのは私だけで、それ以外の多くは県外や都市部へ働きに出てしまいました。現在は過疎化で一学年が10人未満です。第２に、ＷＴＯ（世界貿易機関）やＦＴＡ（自由貿易協定）の貿易自由主義によって、海外から大量の安価な農産物が持ち込まれ、国内の農産物価格が暴落していることです。マダガスカルでは、輸入米の影響で米価が暴落し、多くの農家が米生産をあきらめざるをえない状況だそうです。食糧自給率40％の日本も全く同じ状況です。第３に、農業という職業と農民に対する社会的な差別があることです。人々に食糧を提供するという重要な職業にも関わらず、農業の真の価値が認められていない矛盾や、農家が百姓であることに誇りを持てない現実などに、胸を締め付けられます。しかし、国籍や言語、文化の壁を越えて、私たち青年の視点から青年の言葉で忌憚なく語り合っていると、不思議とどんな困難な状況でも希望に変えられるという力がみなぎってきます。
ブドウ農家への視察とそこでの話は、私の地元、静岡での茶農家の未来を暗示しているようで、とても衝撃的でした。スペインのブドウ農家は、ブドウを生産したあと、醸造設備と販売手段を持たないために、ワイン会社に安価で買いたたかれ、契約栽培の名目で生産も厳しく監視されています。静岡では、まだ各地域に共同の茶工場があり、小さな茶工場を持つ個人農家もありますが、市場の低迷や後継者不足から大手茶企業に生葉で売る「葉売り」が年々増加しています。茶やワインのように加工しなければ商品価値が出ない農作物にとって、農家が自身で加工施設を持ち技術を高めることは、農地の維持と同じくとても重要です。そして、これらの技術を継承するのは、若い世代の後継者です。農地を守り、技術を切磋琢磨する地域での仲間づくりが、企業による農業支配に対抗する道であり、私たち青年の役割だと強く思いました。
現在、地元の青年を集め、味噌づくりや、無農薬の田んぼづくり、そして農業青年で耕作放棄された茶畑を借りて共同管理などに取り組んでいます。厳しい農業情勢の中でも、若者が集い、協力し、語り合える場所があれば、新しい方向へ発展したりや素敵なアイディアが浮かんできます。お茶づくりをしながら、仲間作りも頑張っていますよ。
