第49号 2007年8月
犬と人間 畑での役割分担
茶畑が山の中に点在するこの地域では、畑はとても静かで他の人と出くわすことは滅多に無い。時々、細い農道を軽トラックが通り過ぎるくらい。その軽トラックを茂みの陰で待ち構え「ワンワン!」と追い立てる悪戯をするのは我家の7歳になる犬。毎月この息吹を書き来月で50号になるのに今まで犬の話は一度もしていなかった、ということで今月は私の農作業のお供の話。名前はファング。毎日私と山へ仕事に行く。近所の犬のエサを食べてしまったり、新聞配達のオートバイを追いかけたりと悪戯ばかりしているが、畑に来る猪やカラスを追い払ったり活躍する面もあり、なかなか怒れない。
毎朝、畑へ行く前に鎖から放してやると軽トラックへまっしぐら。軽々と荷台へ飛び乗り、私が準備を終えるのを待ち構える。そしていざ出発。軽トラックの荷台から顔を突き出し、風を受けながら畑へと向かう。畑へ向かう山の入り口で二台からピョンと飛び降りそしてトラックの前を一目散に走り出す。畑の場所はもちろん知っているから私の運転するトラックより先に到着していることもある。
ファングは音にとても敏感な犬で茶刈機や草刈り機、耕耘機など機械のエンジン音を聞くとワンワンと吠えながら周りを走り回る。そしてしばらくして興奮が収まると茶畑のまわりをパトロール。春から夏にかけて彼のパトロールがとても重要になってくる。どういう意味かというと、ファングは蛇を見つける名人ではなく名犬だから。無農薬の茶畑は多くの虫の棲みかとなっていて、それらの虫を食べるカエルやトカゲも集まる。そしてカエルを食べる蛇も。アオダイショウのような無毒な蛇なら良いのだが、マムシのように強い毒を持つ蛇は要注意。去年、生産者仲間の一人が草取りの最中にマムシに指を噛まれ、その後指先から肩に掛けて青黒く腫れてもう少しで指を切断しなければならないところだった。一年以上経った今でも、噛まれた指先の神経が痺れていると言っていた。人間は嗅覚が発達していない為、近くに蛇がいても気付かないことが多い。その点、犬は姿が見えなくても臭いで蛇を見つけてしまう。ファングは今年も既に3匹のマムシを茶畑で見つけた。蛇が茶畑や草の茂みの中へ身を隠してもその臭いを辿って見つけるから感心。そして蛇を見つけるといつもと違う吠え方で私に報せる。蛇を見つけたことを誉めると得意気にまたパトロールの再開。
人間は時に他の生き物に傲慢に振舞ってしまう。けれど彼らは人間よりもすぐれた面を多くもっている。犬は山道を車よりも速く走ったり、発達した臭覚で獲物を見つけたり、暑い夏の日には涼しい場所や山水の湧く泉も見つける。そうした長所を認め、人間に欠けた部分を補ってもらうことで私達の暮らしはもっと豊かになっていくのだろう。
8月の暑い太陽の日差しが照りつけるなか、全身から汗を流し草取りをしている。やけに静かになり辺りを見回すとファングは向うの涼しそうな木陰で体を伸ばして昼寝の最中。「あぁ、犬になりたい...」こういう時こそ強く思ってしまう。私は草取り、ファングは蛇探し&昼寝という変な役割分担で今日も犬と人間は畑で仕事に励みます。