第120号 2013年10月
体験の向こう
昨年のちょうど今頃、田んぼの畦に植えつけた彼岸花が顔を出した。一年間、土の中に眠っていた球根はその開花とともに秋の訪れを知らせてくれる。田畑の畦が赤く染まり、金色に揺れる稲とで里山全体が光り輝くこの時期がとても好きだ。
山の上の茶畑では力強く伸びた秋芽が収穫を待っている。秋に収穫された番茶はほうじ茶の原料になる。冬を越えて春に芽吹く柔らかな新茶、梅雨時期6月下旬の二番茶は紅茶に、そして夏の日差しをいっぱいに浴びて伸びる秋番茶。一年に3回ある収穫も、その時々の季節や気候が茶に表れ、其々個性があって面白い。収穫期は10日から2週間ほど続き、その間に一年間に必要な量のお茶を収穫、加工し、専用の大型冷蔵庫に保管する。よって一年間のうちでも300日以上は収穫以外の仕事を行っている。夏は専ら草取りがメイン。除草剤を使わない為、手作業で行う草取りは、多くの助っ人によって助けられている。我家には常に多くの人が出入りし、数週間から数カ月滞在し農作業を体験している。日本人ばかりでなく海外からの訪問者も多く、ちょうど今も8月からの3ヶ月間、アメリカ人のお茶好き青年が滞在し、日々農作業を共にしている。今月はその彼に感想を書いてもらった。農作業がはかどるというだけでなく、体験の場を提供することの大切さを私自身、彼の感想から再認識している。
以下、スティーブン君の文章です。彼は日本語を独学しているので、この文章も一部手直しはしたものの、基本的には彼が自分で書いたものです。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
農園での生活と感想
私が農園で仕事を始めて一ヶ月間が過ぎ、多くの事を体験しました。これらの体験は言葉で表せないほどの影響を私に及ぼしました。その中から具体的に二つの驚くべき発見を皆様に紹介します。
まず最初に驚いたことは、茶畑にいかに大量の雑草が生えるかという事です。この農園では農薬を使わないので、病害虫の対策が問題になるだろうと予想していました。しかしそれ以上に、除草剤を使わないことによる雑草対策が大変だという事に気付きました。夏場に２、3か月も放置しておけば茶木は完全に雑草に覆われてしまいます。草取りには忍耐と気配り、そしてかなりの労力が必要だということを学びました。それによって雑草の繁茂を抑えます。
これに関連して、2つ目に驚いたことは、農業には非常に体力とスタミナが必要であるということです。もちろん、私はある程度は予想していましたし、それは私が農業体験に興味を持った理由の一つです。私はよく運動をし、健康には自信がありますが、この作業はかなり大変でした。この体験を通して、70代、80代になっても農業を続ける農家の方々を尊敬するようになりました。
農場での体験からより深い理解を得ることで、大型機械が入ることの出来ない山の傾斜地で生産される無農薬茶への私の評価は更に高まりました。
お茶を一口飲むたびに、農家の努力が私自身の体に響くように感じることが出来ます。私の体験を共有することで、化学物質なしで安全な美味しいお茶を作るため農家の大変な努力を皆さんがもっと身近に感じていただけたらと願います。
