第86号 2010年9月
出会い＠茶畑
私が7年前に就農した時から、いや、その前に就農を決意した学生時代からの夢がある。それは農業を通して人と自然の架け橋となり、人々に輝きを取り戻すこと。年齢、性別、職業、出身など関係なく、人は誰でも自然の中に身を置くうちに驚くほどに表情が変わってくる。新鮮な空気、太陽の日差し、吹き抜ける風、草木の臭い、虫の鳴き声、静けさの中にある生命の力強い息吹を肌で感じるうちに、自然と心が開いてくるのかもしれない。体の芯から湧き出るようなキラキラした笑顔に出会うたびに心が熱くなる。
無農薬茶を生産することで、お茶づくりだけでなく里山や自然、地域の文化を守り、人々が活き活きとする場をつくることが出来たら、それはどんなに幸せなことだろう。ただ旨いだけではない、そんなお茶を私は作りたいという想いを胸に試行錯誤している。「悩む」ということは決してネガティブではない。それが次のステップへの原動力となるのだから。私のアイデアひらめきの場は、農作業中が多い。黙々と茶畑で草取りをしている時などに「これだ！」とワクワクするようなことがひらめく。
これまで農業に携わっていく中で、私は都市部と農村の間に大きな隔たりを感じる。農村では農業が衰退し若者がどんどん村を離れていく一方で、都市部では多くの若者が農村に根付く伝統文化や農的生活に憧れる。この両者を結ぶことで、農村の豊かさの再発見や若者が自らの生き方や社会のあり方を考えるきっかけになるのではないか。私自身、これまで多くの人々との出会い、今まで見過ごしていた自然や文化、伝統、地域などとの様々な出会いの中で多くの刺激を受け、少しずつ成長している。それをどう実現するか．．．。幸せなことに、私のアイデアに共感し協力してくれる仲間がいる。早速相談していくうちに、内容も膨らんでいく。
8月28・29日に東京から46人、地元静岡から58人の総勢100人を超える若者の若者による若者のための大交流会を開催した。イベントのテーマは「出会い」。土の上に生きる人とコンクリートの上に生きる人の出会い、自然との出会い、農との出会い、笑顔との出会い、まごころとの出会い、美味しいものとの出会い、そして素敵な相手との出会いも期待しつつ．．．。
2日間のイベントでは農村の魅力をフルに感じてもらう内容にするためにメンバーが話し合いを重ねて練り上げたもの。田舎では当たり前すぎて見過ごしていたことに都会の若者が歓声を上げることで見えてくる地域の豊かさを地元の青年も再発見した。茶畑に出没する猪肉で炊いた猪飯の深い味わい、裏山から切り出した竹は全長30mの流しうどんの樋や、お椀、コップ、竹筒炊き込み飯、灯籠などに変身、月夜に耳を澄ませば聞こえてくる虫の音。そして何より自分たちが生産した野菜や茶、肉などの農産物を大喜びして食べてくれる姿に参加した農業青年は「自信が湧いてきた」と喜んでいた。東京からの参加者も直接生産者と話をすることで、「農家が誇りを持って生産していると感じた」「これからの生き方、食べ方を考えるきっかけとなった」と感想を述べた。
今回の集まりは私たちにとって最初の一歩。次回は静岡の青年を東京に招待しての交流会の案も浮上している。都会と農村の若者、その両者が出会うことで新たな光が生まれる。自然の中でキラキラと輝く若者達の笑顔に囲まれながら、7年前に就農した時の原点に立ち返り、人と自然、人と農、人と人を結びたいという想いが形になっていくことを感じる2日間だった。
