第168号 2018年8・9月
大地に呼吸する
『川のいろ田んぼのにおい空のいろ』
終戦の日を前に、購読している新聞で平和の俳句特集というものがあり、11歳の男の子の詠んだ先の一句に私は感じ入ってしまった。戦争を知らない私たちの世代にとって、人間にとどまらず私たちを取り巻く全てのものに思いを馳せ、その中に生命を見出すという作業は戦争という過ちを二度と繰り返さないために必要不可欠なことなのかもしれない。この句を詠んだ男の子は大地に呼吸するような瑞々しい感性を、どのような暮らしの中で培ったのだろう。
ジリジリと背を焼く太陽の下、私たちは茶畑の中に体を埋め茶樹の根元に生えたカラスウリや山芋の蔓を辿り、その芋を掘る作業に明け暮れる。背中で感じる太陽の熱とは裏腹に枝葉の下の世界はヒンヤリとして薄暗い。昨年取り残したカラスウリの根は大きく太り、山芋の蔓からこぼれたムカゴは小さなハート型の葉をちょこんと広げて発芽している。スコップ片手に、それらを丁寧に取り除いていく。掘り取った芋は地面に置くと、また根を張ってしまうため、袋に入れて畑の外へ運び出す。この暑さの中でも元気な草の生命力もさることながら、草取りを手伝いに来てくれているボランティアの若者たちの忍耐強さには更に感心する。一年の中でも、季節の変わり目の暑さや寒さの始まりは体がまだ慣れていないため最も辛い。徐々に体が慣れていく中で、暑い夏の日差しのもとでも作業を続けられる。それが、手伝いに来る人たちは数週間という短期間の滞在で突然畑へ連れ出され、暑い日差しに晒されるのだから、それは相当過酷な作業となる。それでも黙々と作業してくれるのだから、なんと有り難いことだろう。私たちの茶畑はとても多くの方々の支えや汗によって守られているということは有り難いだけでなく、とても誇らしく嬉しいこと。
作業の合間には、茶畑の隣にある林の木陰で休憩する。林を吹き抜ける涼しい風が通り、しばしの休息にはもってこいの憩いの場所。大地は太陽の熱を和らげ、林は涼しい風を与えてくれる。休憩時間には父母が始めた無農薬のお茶づくりの歴史、畑の生態系、農薬散布が自然に及ぼす影響、戦後の農業の変化、食や暮らしのことから生き方まで様々なことを語り合う。皆、異なるバックグラウンドからそれぞれの体験や想いを語るので、話は尽きない。現代社会で多少の生きづらさを感じる彼らが大地の上で深呼吸する時間を得ることで、今まで言葉にならなかった自らの感覚や葛藤に言葉が与えられていく。そしてその中でこれからどのように生きていきたいか自らに問い直すプロセスがあるように感じる。土の匂い、風や大地の心地よさ、周りに蠢く無数の生命、それら全てを身体感覚として実際に肌で感じる。他の命との連環の中に自らを見出し、自らが生きているという実感を取り戻す、私たちの畑は来訪者にとってそういう場所でもある。
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余談： この時期、全身から発汗するため汗疹に悩まされる。桃の葉を煮たエキスは汗疹に効くのでスプレーボトルに入れ冷蔵庫に常備していると便利。手作りの薬は子供にも安全。
